金剛山福昌寺 客殿・庫裡

所在地 :神奈川県川崎市
構  造:木造平屋
床面積 :約320m²
温熱環境:(G1グレード相当:6地域・川崎市)
外皮平均熱貫流率UA値 0.56W/(㎡・K)相当

基本計画:20/10 – 21/05
実施設計:21/06 – 22/02
工事期間:22/03 – 23/02
設計監理:秋月建築研究室(秋月孝文)
設備設計:佐藤設備(佐藤伸一)
施  工:菊池建設(森良介所長、河崎昌敏棟梁)
撮  影:新澤一平

□ 周辺環境|閑静で見晴しの良い環境
敷地は、神社仏閣が点在する静かで文化的な環境に位置しています。近隣には、新田義貞や北条早雲ゆかりの古戦場として知られる小沢城址もあり、歴史的な趣も感じられる場所です。

子之神橋を渡ると、地形は次第に勾配を増し、境内へ至る石段を登りきると、多摩川に向かって視界が開け、遠くまで見渡せる開放的な眺望が得られます。

建物のオリエンテーションとしては、山門側から朝日が差し込み、本堂側へと夕陽が沈む、時間の移ろいを感じられる東西軸に沿った配置です。

なお、最寄り駅の稲田堤駅の近くには、建築家・石山修武氏による設計の「星の子愛児園」もあり、地域の建築的魅力の一端を垣間見ることができます。

□ 計画の概要
50年を超え老朽化の進行した客殿・庫裡の建替え計画です。50年の間に様々な法律や条例が施行され、そのままでは再建築ができない状態でしたので、土砂災害防止法、及び崖条例と狭隘道路整備(市条例)など敷地に掛かった制限をひとつずつクリアしていくことから計画をスタートしました。

新しい建物は、集会所としての客殿と住居としての庫裡からなる木造平屋建てで、延床面積は約100坪。
明確なゾーニングが求められる利用形態に加え、少人数で効率よく運営・管理できること、来客と裏方の動線が交錯しないことが、設計上の主要な課題となりました。

ゾーニングと動線の計画
3つのゾーンを明確に分けながら、それらが接する中間領域では、床材や天井の仕上げ、天井高さ・勾配などを変化させ、「ここから先にはなんとなく入らないでおこう」と感じられるような奥性(おくせい)を設計上に組み込みました。

A:檀家さんゾーンは直感的に使いやすいシンプルな動線
B:裏方ゾーンは檀家さんと僧侶の動線がいたずらに交錯しないよう配慮
C:住宅ゾーンでは客殿の様子が分かり様々な状況に対応しやすいよう計画

【受付が建物の中心】事務室とエントランスを結ぶ
受付脇から本堂

□テリトリーの重なりとプライバシーの調整

庫裡は元来、寺内の食事を整える場として始まり、やがて住職家族の住居としての性格を持つようになりました。そのため、どうしてもパブリックな客殿とプライベートな庫裡が隣接しがちです。

そこで両者の領域が交わる箇所において、建具(扉・襖)によって境界の開閉や視線の制御ができるようにし、領域の重なり方にグラデーションを持たせました。これにより、庫裡での生活感が客殿や境内ににじまず、同時に住まいとしてのプライバシーも確保されています。

ドローン撮影:STEP-image

工事中のブログ記事は【こちら】から。

玄関夜景 撮影:秋月
受付からの見え 撮影:秋月
雪見障子を少し上げた広縁 撮影:秋月
織部床(床板を作らない床の間) 撮影:秋月
秋月建築研究室  - A . A . L a b