(更新)渋川クリニック(消化器・内視鏡)

所在地:福島県会津若松市
構 造:木造平屋
床面積:約340m²
設計期間:23/04 – 24/07
工事期間:24/08 – 25/03
設計監理:秋月建築研究室(秋月孝文)
施 工:弓田建設、目黒工業商会、アクーズ会津
    小島建築センター
撮 影:秋月建築研究室(秋月孝文)

□ 周辺環境|
文教エリアに位置する、閑静で良質な住宅街です。
2023年には区画整理事業が完了し、新しい街並みが徐々に整備されつつあります。

本計画地周辺では、2019年にお施主さんが「やまみこどもクリニック」を開院されたことをきっかけに、薬局病児保育所が開設され、地域の医療インフラが充実してきました。今回、新たに消化器内科クリニックが加わることで、小規模ながら医療モールとしての機能が整いつつあります。

■「つらくない内視鏡検査」を地域に届ける

医師の願いはひとつでした。

「眠ったまま安心して検査を受けられる場所を、地元・会津にもつくりたい」。

当時、会津では鎮静下での内視鏡検査に対応できる施設がほとんどなく、多くの患者さんが郡山など遠方へ通院していました。

身体的な負担と移動の不便さ。その両方が、受診をためらわせる要因になっていました。

会津地域の医療環境や受診傾向の背景については、下記コラムに整理しました。

1. 内視鏡検査の特徴

    • 体内にスコープを挿入するため、身体的・心理的負担が大きい
    • 不安や恐怖心が受診控えの一因になる
    • 全国調査(オリンパス 2024, n=14,100)では約4割が鎮静下検査を希望しています。

2. 会津若松の医療状況

    • 市内で鎮静下内視鏡検査に対応できるクリニックはほとんどない
    • 多くの患者が郡山など遠方へ通院
    • 鎮静剤使用後は運転不可のため、帰路の負担も大きい

3. 医師の問題意識

    • 「苦痛の少ない検査を、地元で受けられる環境が必要」
    • 「不安を軽減できる検査体験が、医療へのアクセスを広げる」

■暮らしの中の「まちなかクリニック」

「患者さんが負担を感じずに受診できる環境を、地域の日常の中に取り戻したい」。

医療の“場”を暮らしの風景の中に戻す―その想いを、建築としてどう実現するかを考えました。

単に医療機能を備えた建物をつくるのではなく、地域の暮らしの一部として医療を自然に位置づけることを目指しました。

計画地は閑静な住宅街にあり、通りの向かいには小児科と病児保育所があります。
ここに消化器内科が加わることで、子どもから高齢者までを支える“小さな医療の連続体”が生まれます。

大病院では、広い駐車場から受付までの移動中に不安や緊張がよぎることもあるかと思います。
一方この場所では、通りで遊ぶ子どもや、買い物帰りの住民の姿が日常の風景です。
暮らしにそっと溶け込むクリニックは、検査や通院への不安をやわらげます。

「体調が悪くなったら、あの通りに行けばいい」
―そう感じられる安心感を、この場所に届けたいと考えました。

□アプローチ計画
鎮静下での検査に対応するため、送迎用の車寄せと福祉用駐車場をエントランス付近に配置しました。
駐車場からエントランスまで段差なく移動できるよう、外構計画にも配慮しています。

□全体計画・動線計画
計画の中心に据えたのは「安心できる流れ」と「効率的な運営」です。
患者動線は迷わず移動できるよう、一筆書きの構成となるよう諸室を配置しました。
初めて来院する患者さんでも、流れに沿って自然に次の行為へ移れる計画としています。
スタッフ動線は患者動線と交差しないようバックヤードを設け、効率的で衛生的な運営を可能にしています。

□諸室計画
待合室
雑居ビル型のクリニックと異なり、平面を広く使える木造平屋の強みを活かし、送迎者を含めてゆったり過ごせる広さを確保しました。
高窓から自然光が差し込む明るい空間とし、大窓越しに屋外の緑を取り込み、病院特有の緊張感を和らげる落ち着いた環境をつくっています。

受付
受付は待合全体を見渡せる位置に配置し、患者さんの様子に目が届く計画としています。
外部からの来院にも気づきやすく、声をかけやすい受付環境を整えました。

診察室
診察室は2室を設け、医師が診察と内視鏡検査を効率よく切り替えられるようにしました。
これにより診療の回転率を高め、待ち時間の短縮につながるスムーズな運営を可能にしています。

下剤個室
大腸内視鏡検査の前処置に必要な下剤個室は2室を確保しています。
多くのクリニックでは面積的な制約から個室を用意することが難しい中、患者の心理的負担を考慮した医師の考えを反映して実現しました。
照明や換気、専用トイレなど設備を整え、長時間の滞在でも快適に過ごせる環境としています。
また、個室は回復室内に設け、スタッフの気配を感じられる距離感とすることで、検査前の不安軽減につながる計画としました。

内視鏡室と洗浄コーナー
診察室のすぐそばに内視鏡室を配置し、診察から検査への移行をスムーズにしています。
隣接する洗浄コーナーは、使用済み器具と清潔な器具の通る動線が交わらないよう計画し、感染リスクを抑えた衛生的な環境を確保しました。
また、内視鏡室の壁には遮音材を入れ、検査中の音が待合室に伝わらないよう配慮し、待ち時間を穏やかに過ごせる環境としています。

回復室
検査後はストレッチャーのまま隣室の回復室へ移動し、麻酔からの覚醒を待つ動線としています。
スタッフからの視認性を保ちつつ、カーテンの仕切りで半個室をつくりプライバシーを確保しました。
救急車への専用出入口を設け、緊急時には待合室を経由せず直接搬送が可能です。
これにより、体調変化への即応性と落ち着いて休める安心感の両立を図っています。

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